整形外科 Orthopaedics

当院で行っている変形性膝関節症に対する手術治療をご紹介します。
治療は患者さんの体形や骨格、病歴などによって異なりますので、記載している内容が治療のすべてではありません。

膝関節の変形の度合いが強くても、すぐに人工膝関節を勧めるのではなく、まずは骨切り術という骨を矯正する方法が可能であるか、自分の関節を温存する方向で検討します。特に若い方や、高齢でも活発に体を動かされている方は、膝の可動域かどういき(動かせる角度の範囲)を大きく損なわない骨切り術をお勧めしています。以前は、骨切り術の治療期間が長いとされていましたが、技術が進歩し、短期間で退院できるようになりました。一方で術後に積極的なリハビリが必要になるため、体力が低下しやすい70代から80代の方には人工膝関節置換術の手術をするほうがスムーズに早期に日常生活へ戻りやすい、という場合もあります。

関節鏡手術

初期の変形性膝関節症に対して行われる治療法です。関節内ですり切れた半月板や軟骨など膝関節の内部で起こった損傷を最小限に取り除く手術です。炎症や痛みの原因になる増殖した滑膜を除去することも可能です。膝の場合は、関節鏡という細い手術器具を使用するため小さな傷のみで対応できます。しかし、半月板の切除などにより変形性膝関節症が徐々に進む場合もあり、誰にでも適しているわけではありません。

膝周囲骨切り術

内反変形(O脚)や外反変形(X脚)

歩行時や運動時に膝の軸が内側(O脚)や外側(X脚)に傾いてしまった状態を正常な軸に矯正する人工関節を使わない治療法です。
O脚やX脚になると、下肢への負担が正常とは異なり、摩耗と変形が進行していきます。そのため、脛骨を切り変形の向きを矯正し、痛みを取り除きます。ご自身の関節を温存でき、手術・リハビリ後にスポーツ活動への復帰も可能です。膝を深く曲げられるほど回復している場合は、正座や畑仕事なども可能です。

代表的な骨切り術

代表的な骨切り術として、脛骨内側に楔状に広げて手術するopen wedge高位脛骨骨切り術や外側から楔状の骨片を切除するclosed wedge高位脛骨骨切り術があります。

メリット

  • 自分の膝を温存できる
  • 正座や膝の曲げ伸ばし動作を含めて運動制限がない

デメリット

  • 骨切り部の痛みが取れるまでの時間がかかる
  • 金属プレートで固定したのち、抜去手術が必要

手術方法

ロッキングプレート固定

当院では、「ロッキングプレート」という強固なプレートと人工骨を用いています。この方法を取り入れたことで、「長期間体重を乗せない・固定しなければいけない」という制限がなくなりました。この方法は、変形性膝関節症だけではなく、大腿骨内顆骨壊死などに対しても骨切り術が有効です。

関節鏡を用いた関節内処置

関節鏡とは胃カメラと似た内視鏡です。皮膚を大きく切開せずに、小さな穴から関節の内部を観察できる手術器械です。膝周囲骨切り術を受ける患者さんのなかには、半月板損傷や軟骨損傷などがあることも多く、必要に応じて半月板処置(部分切除または縫合処置)や軟骨処置を行うことがあります。また、膝が変形していく過程で生じた骨の余分なトゲ(骨棘)を採取し、骨切り部に移植することで骨癒合が促進されるという報告がなされており、当院でも採取可能な骨棘は積極的に採取し、骨切り部に移植しています。関節鏡を用いることで、大きく切開する方法では見えなかった細かい病変部までモニターに拡大して映し出すことができ、詳細な観察が可能です。

手術後の歩行について

基本的には手術の翌日から膝の可動域訓練(曲げ伸ばし)を行っていきます。手術をした膝に体重を乗せることは、手術方法により手術後2〜3週間程度で少しずつ部分的に体重をかける訓練(荷重訓練)を開始し、手術後6週間程度から体重を乗せて歩く訓練を行っていきます。そのため、手術から約6週間で退院となる場合が多いです。 ただし、骨切り術と併せて半月板の手術をした場合は、膝の可動域訓練や体重をかける訓練(荷重訓練)の時期などを調整します。

手術後の生活

  • 手術後1日目から車椅子での移乗は可能です
  • 手術後2日目を目安にドレーンを抜去します ※抜去完了後からシャワー浴が可能
  • 手術後3日目前後までは発熱や倦怠感など体調が変化しやすい傾向があります
  • 退院後は通院でのリハビリテーションを実施していただきます
  • 手術から半年後〜2年間の期間にプレートを抜去します
  • 抜去手術のための入院期間は最短3泊4日です
骨切りの手術前(左)と手術後(右)

代表的な骨切り手術の術後経過

人工膝関節置換術

全人工膝関節置換術(TKA)のイメージ

変形した膝関節の表面を人工関節に置き換える治療法です。
変形性膝関節症の症状が進行して膝全体が大きく変形している、痛みが強く日常生活に支障をきたす場合に手術を行います。痛みの原因になる部位を人工関節で覆うことで、膝痛の改善に大きな効果があります。

人工膝関節置換術には「全置換術(TKA)」と「単顆置換術(UKA)」の2種類があり、膝関節全体が痛んでいる場合は全置換術を行い、内側だけが痛んでいる場合は部分的に置換を行う単顆置換術を行います。

1. 全人工膝関節置換術(TKA)

正常の膝関節の表面に似た形に設計されたインプラントと呼ばれる人工物に膝表面を置き換え、確実に痛みをとる治療法です。

メリット

  • 入院期間が短く手術の翌日から立って歩くことができる
  • 新しい膝に慣れると痛みが気にならない

デメリット

  • 自身の膝から人工膝になる
  • 人工関節には寿命がある(15年〜20年以上経過した後に再置換のリスクが上がる)
2. 単顆人工膝関節置換術(UKA)

関節のすり減りが「内側だけ」または「外側だけ」の一部手術になるため、膝への負担が非常に少ない治療法です。

メリット

  • 手術時間・入院期間が短い
  • 早期機能回復が見込める低侵襲
  • 膝関節の動きや変化(kinematics)の温存

デメリット

  • 患者さんによっては対応できない場合がある
  • 複数カ所を損傷している場合は適用できない

手術方法

膝の前面を切開し、大腿骨、脛骨(および膝蓋骨)の痛んだ部分をミリ単位で削り、金属の形にあうように骨を形成して人工関節を骨に固着します。当院での人工膝関節置換術は「ナビゲーションシステム」を用いて精度を高めた手術を目指しています。

ナビゲーションシステムについて

当院では、人工股関節置換術を行うすべての患者さんに「ナビゲーションシステム」を用いた手術を行います。人工膝関節を設置するときには「正確な人工関節の設置」が重要になるため、手術支援の機械を利用し、人工膝関節を設置する位置(高さや深さ)や角度を確認し、手術を進めています。

ナビゲーションシステムの詳細についてはこちら

ジャック®(自家培養軟骨)

2013年4月に保険適応となった「自家培養軟骨によるひざ軟骨治療」が当院においても2022年5月より可能となりました。ジャック®(自家培養軟骨)は保険適用で対応可能です。

ジャック®(自家培養軟骨)の詳細についてはこちら

合併症について

膝周囲骨切りの手術を受ける場合に、次のような合併症が起こる可能性があります。また、合併症は手術自体による合併症であり、どこの施設でもおこる可能性があります。

主な合併症

1. 細菌感染症

最も問題となるのは「術後の感染症」です。術後の細菌感染も1%程度の確率で起こるといわれています。特に脛骨の内側から骨を矯正する場合は、皮膚から骨までの距離が短く、細菌感染すると膿が溜まりやすくなります。
万が一、感染が起こった場合は、抗生物質などの治療を行いますが、深刻な場合は洗浄やプレートの抜去も行います。糖尿病がある方やアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患がある方は、手術前に十分に状態をコントロールしてから手術を受けられることをお勧めします。

2. 血栓

血栓とは血管の中にできる血のかたまりです。 手術中もしくは手術直後に、血栓が起こる場合があります。手術中や手術直後は、患者さん自身で下肢の運動ができないため、エコノミークラス症候群に代表される下肢の血の巡りが滞る状態になり、下肢の血管に血栓が起こりやすくなります。足のむくみや痛みを感じるほかに歩行訓練が開始した際に血栓が血管内で移動する肺塞栓が起こる場合があります。

西宮回生病院では、以下の方法で血栓予防につとめています。

  • 手術の前後に下肢超音波検査を行い血栓の有無を確認
  • 手術中手術後にフットポンプ(足のマッサージ器のような器具)を使用
  • 弾性ストッキングの着用を義務化
3. 骨癒合不全・偽関節

骨切りした部位は狙った矯正状態で骨が癒合することを目的としていますが、稀に骨切り部位の癒合が遅れる状態になることがあります。
これは、喫煙と深く関係している可能性が高く、数多くの研究で喫煙が骨癒合を妨げる要因になるということが報告されています。骨切り術をご検討される方には、まず禁煙を強くお勧めしています。
手術時や手術後に、骨切り部へ細かなヒビが入ることが稀にあります。術後1週間を目安にCT検査を行い確認しています。また、骨切り部の癒合が遅れている場合は、荷重量の調整などを行い負担軽減につとめます。
非常に稀ですが、偽関節(骨の癒合が望めない状態になった場合)は再手術(骨移植や追加の固定処置;プレートやスクリュー)が必要となることもあります。

4. 神経・血管損傷

非常に稀ですが、手術中に神経や血管を損傷してしまう危険性があります。
手術は細心の注意を払って行いますが、もしも大きい血管や運動機能に重要な神経を損傷した場合は、修復のための手術や処置が必要になります。

5. 傷口周囲の痺れ・ビリビリ感

「伏在神経」という皮膚の感覚を支配する非常に細かい神経があります。特に脛の内側を手術中に操作したり皮膚が薄いところにプレートが入ると、ビリビリした感覚や皮膚の感覚が鈍い感覚障害が残ることがあります。この場合、神経症状に応じて内服薬を飲んでいただくことがあります。
非常に稀ですが、手術による侵襲で難治性局所疼痛症候群(CRPS)という強い痛みや痺れが遷延することもあり、その場合はペインクリニックなどをご紹介させていただくことがあります。

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