院長コラム3 「昔と今」の人工股関節置換術
今回は、人工股関節置換術(THA)の「昔と今」についてです。
今から30年以上前…まだ私が整形外科で研修中の医師だった頃は、人工股関節置換術(THA)の手術前の患者さんに以下のような説明をしていました。
- 耐久性は10年ほどで、10年後には入れ替えの手術が必要
- 平均寿命が80歳前後だから入れ替えの手術をする人は少ない…?
- 杖を使った生活が必須。正座なんて絶対ダメ
「昔」の平均寿命
昭和から平成へ年号が変わった当時の平均寿命は男性75歳、女性81歳でした。 そして人工関節の耐久年数は10年ほど。そのことを考慮して、バリバリと現役で活躍している60代は手術をできるだけ控える傾向がありました。「今」の平均寿命
令和になった日本の平均寿命は、男性が81.64歳、女性が87.74歳。90歳を超えることも当たり前のような雰囲気すら感じるほどです。 そして人工関節の耐久性もずいぶん変わったと実感します。「昔と今」の行動制限
30年前に75歳の患者さんに手術をしていた理由は、人工関節の耐久年数が短い(10年程度)と考えていたので60代の方に手術した場合に、再手術の可能性が非常に高いと考えて、できるだけ中高年でまだまだ活動性の高い方への手術は控えていました。また、人工関節を長持ちさせるために、杖の使用を勧めたり、人工関節にかかる負担を減らそうとしていました。 ほかにも、脱臼は人工股関節の大きな合併症のひとつです。人工関節手術後の脱臼を回避するために「正座やあぐら・和式トイレ・しゃがみ込み」など日本人の暮らしに必要な動作を患者さんに制限する説明をしていました。変化のあった30年…
人工関節が、ほぼ現在と変わらない形になったのは1962年とされています。(私の生まれた年です!)世界で初めて人工関節の手術を受けた方が、術後60年経過していることになります。60年間も人工関節が長持ちしていることを証明するのは難しいですが、すでに手術後30年以上の人工股関節置換術(THA)の成績というのは90%以上長持ちしているという報告がなされています。 この30年で人工関節は素材やデザイン、手術手技が進化して安定した長期成績が確保されるようになってきています。また手術で皮膚を切る大きさは半分以下になり、手術時間も大幅に短縮されています。
- 耐久性は30年ほど
- 早期退院が可能
- ゴルフやジョギングなどもできる! 正座は膝が悪くなければOK