夏休み企画⭐️院長コラム2「手術後の痛み」
先週に続き、夏休み企画として整形外科の内容をご紹介しています。
整形外科の手術といえば
整形外科の領域で手術を行うケースは大きく2つあります。
ひとつは、交通事故や転倒で骨折・靭帯損傷などのケガ(外傷)をきっかけに、突然手術をする現実が飛び込んでくる場合です。
もうひとつは、人工関節手術や骨切り手術を行う場合です。この場合は、手術の選択から手術をする時期の決定まで、患者さんがある程度決めることができます。
どちらもの場合にも、「手術したあと、どれぐらい痛いのか?」不安に感じるという声を聞きます。今回はこの「手術後の痛み」についてご説明します。
痛みを我慢しないで過ごせたら…
(今から30・・?年前の)私が研修医だったとき、「手術なんだから術後は痛くて当たり前です!ガマンしてください」 …という表現を外科医が言ってしまっていたように思います。たしかに、手術をしたあとの痛みをゼロにすることは今でも難しいですが、痛みを我慢するという考えは、少し変わってきた部分もあります。
これまでは、「手術後に効果のある鎮痛方法を準備しておく」「痛みを訴えたら使いましょう」という方法でした。この方法だと「痛みが強いとき」や「痛みが継続しているとき」に薬を投与する量や薬を使用する回数が増えてしまい、副作用が発生するリスクが上がる危険性がありました。当院は、痛くなってから対処するのではなく、痛みが強くなる前に対応する「マルチモダール鎮痛法 (多様式鎮痛法)」を推奨しています。
痛みを抑えて副作用も軽減できる?!
マルチモダール鎮痛法とは、さまざまな鎮痛薬や鎮痛方法を組み合わせ、少量ずつ同時に使用することで痛みの改善を図る方法です。局所麻酔薬・末梢神経ブロック・オピオイド・消炎鎮痛剤・アセトアミノフェン点滴などを少量ずつ使用して痛みの緩和を行います。併せて、手術後は頻回にアイシング(氷で冷やす)ことも効果的です。手術前から麻酔科医と整形外科医・病棟スタッフが協力して「痛み」を我慢せずに済むように取り組んでいます。
薬の種類について
マルチモダール鎮痛法を考える時には、「薬剤の種類」と「投与経路」の選定を行う必要があります。今回は使用頻度が高い薬剤を含めて、簡単に解説します。
局所麻酔薬
手術で切開する皮膚やまわりの筋肉に手術中に直接局所麻酔薬を注射する方法。
末梢神経ブロック
手術執刀前に手術室で麻酔科医が、手術後の痛みに関連する神経や神経の周囲をブロックする方法。当院では全身麻酔を行ったあと、手術前に超音波検査で神経の走行部位を確認しながら麻酔科医が行っています。人工股関節置換術では、大腿神経ブロックと腰方形筋ブロックを症例によって使い分けています。
オピオイド
一般的にオピオイドは「麻薬性鎮痛薬」を指す用語ですが、“麻薬=オピオイド”というわけではありません。オピオイドは、手術中・手術後の痛み、外傷による痛み、がんによる痛み、神経が損傷された後などに長期間続く慢性痛に対して鎮痛薬として用いられます。人工股関節の手術後には、フェンタニル少量を持続的に点滴しながら痛みが強くなったときなどに30分に1回、患者さんが自分で投与量を追加できる装置(PCA)を使用しています。
消炎鎮痛剤
いわゆる “痛み止め” “炎症止め” と通称される薬です。
局所の炎症反応を抑えることで鎮痛作用が得られます。市販薬にも使用されているロキソニンやボルタレンがこれに当たります。
アセトアミノフェン点滴
アセトアミノフェンは、子どもの解熱剤(カロナール)や市販の頭痛薬(セデス)のなどでよく知られていますが、副作用が少なく安全な解熱鎮痛薬とされる一方で内服薬では鎮痛効果が弱いため、手術後にはあまり使用されてきませんでした。ただし近年は、点滴投与の薬剤が国内に導入され、手術後の痛みにも有効とされています。
少しでも手術後の痛みに対する不安を無くし、術後早期の離床・リハビリテーションが開始できるように工夫をしています。手術をしたあとも痛みで苦しい、痛みを我慢して何日も耐えるという考えは、少し昔の話になってきました。整形外科の手術方法も同様に進化しています。整形外科の手術でお困りのことや不安な点があれば、当院までご相談ください。セカンドオピニオンとしてのご相談にも対応しています。